施設長コラム「つれづれ草」(平成31年)

●平成31年4月

30年の時を経て平成が終わろうとしている。平成元年、日本経済はバブルの真っ只中だった。土地や株価の値上がりは常識を超えていた。その後日本は長期不況に陥り、今も低成長にあえぐ経済状況が続いている。そして阪神淡路大震災や東日本大震災その他火山の噴火など多くの災害が日本各地で発生した。自然の猛威の前に人間は無力だった。
一方海外では湾岸戦争や同時多発テロそして過激派組織イスラム国(IS)の出現等世界各地で紛争が起きた。その要因は資源や領土また宗教の対立等とさまざまだが、その底辺に人間の本能が作用しているなら争い事は後を尽きないことだろう。

●平成31年3月

 2月某日 電車とバスを使って「曽我の里 別所梅林」を訪れた。35,000本あるという白梅は2分咲き程度だったが、紅梅や早咲きの十郎がほぼ満開の姿で迎えてくれた。私は香を求めて蕾の白梅にそっと顔を近づけた。薄っすらとした香に酔った私は菅原道真の和歌「東風吹かばにほいおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ」が浮かんだ。学問の神様と慕われる菅原道真は無実の罪によって九州の大宰府に左遷されてしまった。可憐な梅の蕾を眺めていると、都を離れる際に詠んだその時の道真のやるせない心情が伝わってくるように思えた。
 別所梅林を後にした私は次に松田山ハーブガーデンの河津桜を観に行った。駅からバスで10分程の高台にあり、観光客で溢れた会場は満開に近い桜と足元の黄色の菜の花の群生が見事なコントラストを描いていた。私はわずか3時間ほどの間に駆け足で春の季節を渡り歩いたようだった。2日後には「スーパーフルムーン」が見られるという。菜の花にまして桜も又満月によく似合うことだろう。
* スーパームーン 満月が通常より最大限に大きく見える現象

●平成31年2月

たまたま手にした本の中に農薬に関する記述があった。今から22年ほど前に遺伝子組み換え種子の商業利用を開始したアメリカでは、ある農薬メーカーが遺伝子工学で1年しか発芽しない種子を作り、その種子が自社製品の農薬にのみ耐性を持つように遺伝子を組み替えることに成功した。この技術は同社に多額の利益をもたらしただけでなく、やがて世界中を、食をめぐる巨大なマネーゲームの渦に巻き込んでいった。
この農薬は当初「害虫だけに有害な夢の農薬」として人への毒性は低いとされたが、ヨーロッパではミツバチの減少や大量死が相次いだことで世界は続々と使用禁止に向かった。一方日本は2015年そしてその2年後にこの残留農薬基準を大幅に緩和していった。その背景にはTPPやFTAなどの国家間条約に備え、全てアメリカ基準に合わせておく思いがあったのかも知れない。
健康のために極力野菜を多く摂るように心がけているが、読み終えた私は有害物質が体に蓄積していく不安を覚えた。農薬の使用量と発達障害や発がん性との相関関係を指摘する声も聞かれる。経済成長を目指す政策が、医療費の増大や国民の健康被害を招くとしたら虻蜂取らずの結果となりそうだ。
参考著書 「日本が売られる」幻冬舎 堤 未果著

●平成31年1月

某テレビ局の「池の水を全部抜くと、そこに何が潜んでいるのか」調べる番組が人気を博していて北アメリカ原産の大型肉食魚類「アリゲーターガー」や大怪獣ガメラのような「ワニガメ」の他ブラックバス等多数の外来種が生息していて在来種を駆逐している様が放映されている。「緊急SOS」との番組名にふさわしく在来種にとっては救い主となっているが、人為的な行為が過剰捕食を生み、有害生物の被害を後押ししてしまう例もあるという。例えばブラックバスを取り除くと、ブラックバスが食べていたアメリカザリガニが爆発的に増える。すると増えたザリガニは水草を刈り取り、水草を隠れ家や産卵場所、エサにしていた昆虫などが激減するとういう。池に住みついた外来種も当初は人為的なものだったろうが、そこに新たに人の行為が加わると生態系を乱すこととなりそうだ。
最近、労働力の確保と相まって出入国管理法や難民認定法の改正が話題になっている。「今後日本が目指す外国人との共生社会」をどのような視点から捉えるかは個々の判断によるところだが、私たちの祖先の縄文人や弥生人も元を正せば外来種であったことをふまえて議論して貰えたらと願っている。
上に戻ります